【第23話】現代版・吾輩は猫である @ 川越

第23話:【吾輩の病気】主人の心配性と、サクサクの小江戸黒豚メンチカツ

吾輩は猫である。名前はソーセキ。

我が主人は、一度思い込むと周囲が見えなくなる心配性な男である。

漱石の描いた『猫』でも、吾輩が病気に罹ったと苦沙弥先生が大騒ぎし、医師を呼ぶの呼ばないのと珍騒動を繰り広げた一幕があったが、我が主人の場合もまったく同じであった。

この日の朝、吾輩が日当たりの良い畳の上でただ「ふぁ〜あ」と長くて退屈なあくびをし、少し目を細めてうずくまっていただけのことである。それを見た主人は顔色を変え、飛んできた。

「そ、ソーセキ……!? いつもより元気がなくないか!? まさか病気か!? プレオープンの準備で俺が構ってやらなかったから、ストレスで……!?」

「にゃー(ただ眠いだけだ)」と鳴いてみせたが、狼狽した主人の耳には届かない。会社へ退職届を提出する直前の極限状態にあった主人は、自分の緊張とストレスをすべて吾輩の健康状態に投影していたのだ。

「ダメだ、動物病院へ……いや、その前に様子を診ないと……」とウロウロ部屋を往復する主人の狼狽ぶりは、見ていて哀れなほどであった。

そんな主人の大騒ぎを鎮めたのは、打ち合わせにやってきた友人・菅(すが)であった。

「おいおい店主、ソーセキはただ日向ぼっこして眠いだけだろ。お前が勝手にテンパってどうするんだよ」

菅は呆れ顔で、一番街のミートショップで買ってきた揚げたての紙袋をテーブルに置いた。川越名物「小江戸黒豚メンチカツ」である。

「ほら、退職届を出す前にしっかり腹ごしらえしとけ!」

ザクッ。

菅が紙袋から取り出したメンチカツを割ると、香ばしい衣の音とともに、小江戸黒豚の溢れんばかりの肉汁と玉ねぎの甘い香りが部屋中に広がった。

「……うわ、すごい肉汁だ……」

おどおどしていた主人が一口頬張ると、サクサクの衣の中から黒豚の旨味が一気に溢れ出し、ジューシーな肉のコクが口いっぱいに広がる。

「うまっ! 肉の旨味がすごく濃いのに、全然しつこくない……! 旨味がジワジワ腹の底に溜まっていく感じがする……」

ひとくちごとにジューシーなエネルギーを補給した主人の顔から、先ほどまでのオロオロとした怯えが消え、お腹の底からドシッと腹が据わっていくのが目に見えてわかった。

「……そっか。ソーセキが病気なんじゃなくて、俺自身が不安で舞い上がってただけなんだな。黒豚のメンチカツ食ったら、なんだか度胸がついてきたよ」

吾輩が「ようやく気づいたか」と呆れ顔で身震いをしてみせると、主人は苦笑しながら吾輩を撫でてくれた。

腹をくくった主人は、退職届を入れた内ポケットをそっと確かめ、明日会社へ提出する決意を固めたようであった。

吾輩は呆れつつも、力強い目を取り戻した主人の背中へ「ひょい」と飛び乗ってやった。

「うぐっ……ソーセキ。お前の乗る重みとメンチカツの腹持ちで、明日は何があってもブレずにいられそうだ」

主人は苦笑しながら、落ちないように背中を丸めて手でそっと支えてくれる。

――まぁ、今宵はお前の背中が少しばかり温かいから、許してやるがな。

【今回の聖地&川越スポット】

  • スポット: 川越市内の精肉店・ミートショップ(一番街周辺)
  • 川越グルメ: 小江戸黒豚メンチカツ
  • 小ネタ: 埼玉県産のブランド豚「小江戸黒豚」を贅沢に使用した、肉汁あふれるサクサクのメンチカツ。退職直前の不安や心配性でフワフワしていた心と身体に、どっしりとした度胸とエネルギーを与えてくれる。

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