【第15話】現代版・吾輩は猫である @ 川越

第15話:【金田令嬢と蔵リノベ】オシャレ空間の眩しさと、濃厚なさつまいもプリン

吾輩は猫である。名前はソーセキ。

我が主人は、自分が目指すべき「お店の姿」に迷うと、すぐに川越の街へ「市場調査」という名の現実逃避に出かける癖がある。

漱石の描いた『猫』では、金田の令嬢・富子やその取り巻きたちが、絢爛豪華で高慢ちきな風を吹かせて苦沙弥先生を威圧したが、我が主人が気後れしたのは人間ではなく、川越の一番街に増えた「蔵リノベーションのおしゃれカフェ」であった。

プレオープンを控えた主人は、最新のトレンドを勉強するのだと息巻き、蔵造りの街並みに佇む洗練されたカフェの門をくぐった。しかし、足を踏み入れた瞬間から主人の挙動不審が始まったのである。

高い天井、吹き抜ける洗練された空間、スタイリッシュな間接照明。そして何より、店内を埋め尽くすキラキラした若いお客やカップルたち。その空間のあまりの眩しさに、平日は会社で赤シャツ上司に揉まれている地味な胃弱サラリーマンは、完全に気圧(けお)されてしまったのだ。

「……ソーセキ、場違い感がすごい。俺みたいな冴えない男が、こんなオシャレな場所に居座っていいんだろうか……」

主人は端の席で背中を小さく丸め、縮こまりながら注文した「さつまいもプリン」の到着を待っていた。

やがて運ばれてきたのは、小さな瓶に入った滑らかなお芋のプリンだ。上には黄金色のさつまいもペーストと生クリーム、カラメルソースが美しく重ねられている。

「うわ……見た目からしてキラキラしてる……俺の作ろうとしてる古本カフェとは月とスッポンだな……」

卑屈な溜め息をつきながらスプーンを差し入れた主人だったが、一口頬張った瞬間、その表情が一変した。

「……うまっ! めちゃくちゃ濃厚で、お芋の自然な甘みがすっごく優しい……!」

どれほど見た目が洗練されていようと、その核にあるのは川越の地で育まれた「さつまいも」の素朴で力強い旨味だ。上辺のオシャレさに気後れしていた主人は、素材の持つ誠実でとろけるような美味さに触れ、ハッと毒気を抜かれた顔をした。

「……そうか。無理してこんなオシャレ空間を作ろうとしなくていいんだ。俺は俺の好きな古本と、ホッとする珈琲があれば……それでいいんだよな」

プリンを平らげる頃には、主人の顔から卑屈な影が消え、自分なりの店作りへの小さな自信が灯っていた。

夜、店に戻った主人は、自分の手で並べた古本の棚を愛おしそうに眺めながら、満足そうにコタツへ潜り込んだ。

吾輩は呆れつつも、迷いが吹っ切れてすっきりとした顔の主人の背中へ「ひょい」と飛び乗ってやった。

「うぐっ……ソーセキ。オシャレカフェの映えには遠く及ばないけど、お前の乗るこの狭い部屋が、一番落ち着くよ」

主人は苦笑しながら、落ちないように背中を丸めて手でそっと支えてくれる。

――まぁ、今宵はお前の背中が少しばかり温かいから、許してやるがな。

【今回の聖地&川越スポット】

  • スポット: 一番街周辺の蔵カフェ(川越市幸町など)
  • 川越グルメ: 小江戸さつまいもプリン
  • 小ネタ: 川越名物のさつまいもを贅沢に使用した濃厚で滑らかなご当地プリン。さつまいものほくほく感と生クリームのまろやかさが溶け合う優しい味わいが、他人の眩しさに気後れしていた主人に「自分らしい誠実な店作り」の大切さを教えてくれる。

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